PONTAkun’s blog

自分の生きてきた経験や思いを素直に書いてます

目立たなかった練習生 ~第四話~

Sくんはつらかった過去を僕に話してくれました。

 

ここでは書けませんが、高校でイジメらていた時期があり登校拒否をしていたことがあったそうです。

 

Sくんつらかっただろうな、本当に・・・。

 

そしてその傷は今も癒えたかはわかりません。

 

しかし、傷ついた分きっと人に優しくなれる、人の痛みがわかる人間になれるとも僕は思いました。

 

無神経に人を傷つけたり何を言われても気にしない人間よりも、痛みを知った上で人に優しく出来る人間の方が僕は強いと思うからです。

 

だからSくんにはプロになって自信をつけてもらいたいなと改めて思いました。

 

一緒に練習してかれこれ半年以上たち、Sくんも形がしっかりしてきました。

 

バリエーションも少しだけ増え、顔つきもどことなく変わったような気もします。

 

ある日、僕はたまたま仕事が定時で上がれる日があり、Sくんにメールで「今日は仕事はやく終わったから、ジムへ夕方6時過ぎに行くわ」と伝えました。

 

Sくんは僕の都合に合わせて夕方6時ごろにジムへ来ました。この時間はプロの選手やそれを目指す練習生でいっぱいです。

 

とは言えいつも通り僕とSくんで練習していると、いきなりトレーナーからSくんに声がかかりました。

 

「おいS!お前Tとスパーリングだ。」

 

普段はあまりいることのない時間にいたSくんはTくんとスパーリングを指名されました。

 

このTくんっていうのは、トレーナーが目をかけている有望株の一人でした。

 

センスがある子で性格も気が強く、イケイケなタイプだからトレーナー好みので期待されていました。

 

Tくんは既にプロテストに受かっており、一か月後にデビュー戦を控えていました。

 

デビュー前とは言え一応はプロなのです。

 

トレーナーがどういう意図でこの組み合わせにしたのかはわかりませんが、Sくんは少し不安そうな顔をしていました。

 

TくんとSくんはほぼ同期に入門したそうですが、その歩んだ道のりは違いました。

 

片方は才能を見込まれてしっかりとした指導を受けた人間、もう片方はちゃんとした指導を受けずほとんど我流でやってきた人間。

 

かなり前にSくんとTくんはスパーリングをしたことがあったそうですが、Sくんは一方的にやられ、鼻血がかなり出たそうです。

 

僕はそのときのことを見たわけではありませんが、よくそんな危険なスパーリングをさせたなと思います。

 

だけど、Sくんはあのときのままではありません。

 

僕はこのスパーリングの組み合わせを聞いたとき面白いと思いました。

 

トレーナーや周りの人間がこのスパーリングをどう思っていたかはともかく、SくんとTくんはいい勝負すると僕は考えていたからです。

 

僕とばかり練習していたのでSくんは、自分の成長を計るのにいいチャンスだと思いました。

 

はっきり言って僕は有望株Tくんよりは強いです。

 

それはキャリアがある分当たり前で、僕といい勝負をするようになったSくんがやられるはずがないと思いました。

 

グローブとヘッドギアをつけ、いよいよリングに上がるSくん。

 

以前のこともあるのか、やはり不安そうです。

 

僕はそこで一言だけSくんに言いました。

 

「いつも通り。いつも通りでいいんだからな。」

 

するとSくんは小さく頷きました。

 

この言葉は何も気休めで言ったのではなく、本当にいつも通り練習でやったことを出せればいい勝負になると思っていたのです。

 

さっきも言いましたが、あの頃のSくんじゃありません。

 

あれだけ真面目に一生懸命やったんです、出来るはず。

 

 

(カーン!!)

 

1ラウンド開始のゴングが鳴りました。

 

つづく